良性の腫瘍や早期のがんはリンパ節などへの転移をしないため、広い範囲の切除をする必要がなく、胃カメラや大腸カメラなどによる内視鏡治療の適応になることがあります。内視鏡治療には様々な方法がありますが、いずれにせよきちんと、また安全に病変を切除する必要があります。当院では技術的に難しいとされる、ESDやPOETなどの手技を積極的に取り入れて患者さんの負担をできるだけ減らすように努力を行っております。
従来から行われている方法として、病変に投げ縄のような器具をかけて切除する、内視鏡的粘膜切除術(EMR)が行われてきましたが、比較的大きな病変では切除が困難でした。
そのため、病変を分割して内視鏡的な切除を行うか、もしくは、手術が行われてきました。しかしながら、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)という手法を用いることで、それまで切除が困難であった病変を、内視鏡的に一括で切除することが可能となり、腫瘍によっては手術をしなくても内視鏡で治療を行うことができるようになりました。体に傷をつけることなく治療を行うことができるため、術後の苦痛は少なく、治療を受けた患者さん方からも高い満足度を得ることができています。また病変を一括で切除することができるため、分割切除となった場合に比べ、治療後の病理学的検査(顕微鏡の検査)も、より正確に行うことができます。また分割切除に比べて、腫瘍の遺残や再発も少なくすることできると考えられています。このESDという治療法は既に保険収載されていますが、大腸においては、特に技術的な難易度が高いことから、厚生労働省から認定された施設でのみ行うことができます。福岡大学病院は、厚生労働省から認可された施設の一つです。
ESDの方法
当科では2003年3月からESDを開始し、現在は、咽頭(耳鼻咽喉科と共同で治療)・食道・胃・大腸のESDを行っています。
ESDは通常、内視鏡室において、静脈麻酔のもと行われていますが 、適切な麻酔深度が 得られない場合や、 治療が長時間となる場合には、患者さんに苦痛を強いてしまうことがあります。当科では, 長時間の治療が予想される場合や静脈麻酔が効きづらい患者さんに対して、麻酔科の協力のもと、全身麻酔下でのESD(手術室でのESD)を行っています。治療中は麻酔科の医師が全身管理を行うため、より安全に治療を行うことができます。
これまで、上部消化管における粘膜下腫瘍(筋層由来)に対しては、主に手術が行われてきました。しかしながら、アカラシアに対する内視鏡的筋層切開術(Per-Oral Endoscopic Myotomy:POEM)の手法を利用することで、症例によっては、粘膜下腫瘍を内視鏡的に摘出可能であるということが、2012年に井上晴洋医師ら(昭和大学江東豊洲病院 教授)によって報告されました。この技術はPer-Oral Endoscopic Tumor resection(以下、POET)と称され、実際に行われています。内視鏡による治療であるため、手術に比べ、体への負担を少なくすることができます。また皮膚に傷を作らないため、整容的な面でもメリットがあります。
治療までの流れとしてはまず、上部内視鏡検査・超音波内視鏡検査・CTを行い、上部消化管の粘膜下腫瘍であるかどうかを精査します。次に超音波内視鏡ガイド下で腫瘍の針生検を行い、腫瘍の性質を調べます。これらの検査で、内視鏡的に腫瘍が摘出可能と判断された場合には、POETを行います。
全身麻酔下で経口内視鏡を用いて治療を行います(下左の図)
POETの方法
POETの実際
POETの実際
A : POET前の内視鏡画像。4㎝大の粘膜下腫瘍を認めた。
B : ポケット内で腫瘍全体を剥離。
C : 摘出した腫瘍。病理検査の結果、平滑筋腫(良性の腫瘍)の診断。
D : POET後12か月目の内視鏡検査。腫瘍の遺残や再発は認めず。
画像は下記論文より引用
塩飽洋生 山下兼史 中村廉 ほか 粘膜下腫瘍に対するPOET 消化器内視鏡 東京医学社
2017年2月号より引用