炎症性腸疾患の診療に携わる医師(名前をクリックするとプロフィールが見れます)

吉松軍平

(再生・移植医学)



福岡大学消化器外科の潰瘍性大腸炎・クローン病の手術の特徴
  • 福岡大学消化器外科では潰瘍性大腸炎・クローン病ともに腹腔鏡を用いた手術を積極的に行っています。
  • 当科は大腸がんの腹腔鏡やロボット手術に豊富な経験があり、潰瘍性大腸炎やクローン病においても、同様の手技を用いることが可能です。大腸がんの解説のページ(リンク)をご参照ください。
  • 傷が小さく、痛みが少ないという利点のみならず、女性であれば妊娠する能力の保持、クローン病では複数の手術が必要になることが多いため、癒着が少なく次回の手術がしやすいという特徴があります。
  • 炎症性腸疾患は薬剤による治療がメインになりますが、福岡大学消化器内科は炎症性腸疾患の専門施設であり、内科と外科の連携がスムーズにできる特徴があります。

炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎・クローン病)について
  • 腸管の粘膜に炎症や潰瘍を引き起こす原因不明の慢性疾患を総称して炎症性腸疾患といいます。潰瘍性大腸炎クローン病がその主な疾患で、いずれも難病として特定疾患に指定されています。
  • 炎症性腸疾患の原因はよくわかっていませんが、患者さんの数は増加しています。本邦では潰瘍性大腸炎が約16万人、クローン病は約4万人です。
  • 近年、生物学的製剤などの新しい内科的治療のおかげで、以前に比べて病状のコントロールが良好になってきています。福岡大学消化器内科は炎症性腸疾患の治療においては全国でも有数の施設です。
  • 内科治療は格段に進歩しましたが、手術が必要な患者さんはおられます。クローン病では平均すると一生に1度は手術が必要になると言われています。
  • 炎症性腸疾患で長期間経過された患者さんでは、炎症にともなう発癌に注意が必要です。症状がなくても定期的に検査を受け、早期発見に努めましょう。

  (発癌した場合には癌の治療が必要になります。大腸癌治療のリンクを御覧ください)

  • 炎症性腸疾患の患者さんは進学、就職、結婚、出産、育児など人生のイベントを、治療しながら迎えなければなりません。できる限り社会的事情に配慮しますが、手術が必要と判断された場合は、適切な時期に手術を行うことが大切です。
  • 福岡大学消化器外科では手術が必要な患者さんには、大腸がんの治療と同様にできるだけ患者さんの負担が少なく、手術に伴う合併症を防止できるように、腹腔鏡を用いた手術をできるだけ行うようにしています。

潰瘍性大腸炎に対する手術
  • 潰瘍性大腸炎の内科的治療は近年著しい進歩を遂げていますが、様々な理由で手術が必要な状況になることがあります。
  • 全大腸炎型の潰瘍性大腸炎の患者さんは発症から20年の経過の間に40%で手術が必要になると言われています。
  • 初診時に重症であった患者さんの12.5%、劇症では50%の患者さんが、発症から5年以内に手術率が必要になるとされています。
  • 病変の範囲が広いほど、炎症の程度が強いほど手術が必要となる可能性が高いです。
  • 近年は大腸癌を合併する患者さんが手術適応になることが多くなっています。

 潰瘍性大腸炎で手術が必要になる状況

  • 絶対的手術適応(必ず手術が必要となります

腸穿孔(穴が開く)、大量出血、中毒性巨大結腸
重症型劇症型内科治療が無効な場合

大腸癌および前癌病変を合併した場合

  • 相対的手術適応(手術を考慮する状態です

① 難治例:内科治療で良くならないまたは重篤な副作用に悩まされる
腸管の狭窄瘻孔(腸と腸がつながってしまう)などの症状が出現

 腸管以外の合併症の治療が難しい


  • 潰瘍性大腸炎の手術では原則として大腸をすべて切除します(大腸全摘術)。
  • 小腸で便がたまる袋を作成し(回腸嚢・回腸パウチ)、肛門もしくは肛門近くの直腸粘膜とつなぎ合わせます。肛門とつなぐ場合を回腸嚢肛門吻合、肛門管直腸粘膜と吻合する場合は回腸嚢肛門管吻合と呼びます。
  • 多くの場合、2-3回に分けて手術を行います(分割手術)。
  • 術後に腸のつなぎ目から便が漏れる合併症が起こりえます。これを予防するために一時的人工肛門(ストーマ)をつくります。
  • 肛門を締める筋肉の働きが低下している場合は術後に便失禁に悩むことになるので、高齢の方などでは、あえて腸管吻合は行わずに永久人工肛門とします。

  • 福岡大学消化器外科での大腸全摘術は腹腔鏡を用いて傷の小さい治療を行います。当科では腹腔鏡だけでなく、経肛門内視鏡手術を用いてお腹とお尻の操作を同時に内視鏡下に行うことにより、より精密で、出血を少なく、手術時間を短くすることができます。性機能排尿機能、女性では妊娠能力の維持にも利点があると考えています。
  • 命に関わる病状の場合には、できるだけすみやかに病巣を取り除くために通常は開腹手術を選択し、まず大腸の大部分の切除(切除が難しい「直腸」はあえて切除しない)を行い、体調がよくなった後に、残った直腸を切除し腸管吻合を行います(3期分割手術)。
クローン病の腸管病変に対する手術
  • クローン病は小腸や大腸、あるいは肛門周囲に潰瘍や瘻孔、狭窄、膿瘍形成などをきたす病気です。多くの場所で病気が起こり、消長を繰り返すことが特徴です。

  • クローン病患者さんの多くが、一生に1度は外科手術が必要となるとされています。
  • クローン病患者さんの4人に1人は発症から5年以内に腸管手術が必要になります。
  • 発症時の炎症が強いほど手術率が高く、喫煙者は非喫煙者に比べて手術率が高いです。禁煙を心がけましょう。

 クローン病で手術が必要になる状況

  • 絶対的手術適応(必ず手術が必要となります)

腸穿孔、大量出血、中毒性巨大結腸症、改善しない腸閉塞、膿瘍形成
小腸癌大腸癌・直腸癌を合併

  • 相対的手術適応(手術を考慮する状態です)

① 腸管の狭窄、瘻孔(腸と腸がつながってしまう)などの症状が出現

 内科治療でよくならない腸管以外の合併症がある

③ 難治性肛門部病変(痔瘻、直腸腟瘻など)、直腸肛門病変による排便障害 


  • クローン病は手術で根治することはありません。クローン病により生じた狭窄や瘻孔などの症状を改善するのが手術の目的です。
  • 通常、病変を切除したり狭窄している部分を形成して腸が流れるようにします。
  • 適切に病巣を切除や形成しても、腸管吻合部や残った腸管に再び炎症が起きて、再度手術が必要になることがあります。
  • 再度腸管切除が必要となる可能性は、最初の手術から5年で4割、10年で7割です。
  • 複数回の手術になることが多いので、福岡大学消化器外科ではできるだけ腹腔鏡を用いて傷を小さく、また癒着の少ない手術(次回の手術がやりやすくなる)を心がけています。
クローン病の肛門病変に対する手術
  • 若年者の繰り返す痔瘻肛門周囲膿瘍などから、クローン病と診断されることがあります。通常の痔瘻や肛門周囲膿瘍と異なり、クローン病の肛門病変の場合、手術だけではなかなか治らず、クローン病の内科治療が必要です。早期診断のためには全身麻酔下に観察し、組織を採取して病理検査を行うことを強くおすすめします。
  • 痔瘻や膿瘍に対してドレナージ手術(シートン手術)を行います。狭窄に対しては拡張術を行います。
  • 肛門の病変が重症の場合には便が肛門に来ないように人工肛門(ストーマ)を造設することがあります。
  • 欧米や韓国では、クローン病の痔瘻に対して幹細胞(万能細胞)を用いた治療が行われています。本邦では治験が予定されています。詳しくは担当医にご相談ください。

  • 福岡大学病院では、IBD患者さんの「QOL(Quality of life、生活の質)向上」を第一に、内科医と外科医が密に連携して治療にあたります。薬剤師、皮膚・排泄ケア専門看護師、ソーシャルワーカーがチームに参加し、サポートします。手術治療が考慮される患者さんには外来担当医より「炎症性腸疾患の手術についてQ&A」をお渡しします。術後の生活についても分かりやすく説明されています。分からない点、不安な点はスタッフに申し出てください。丁寧にわかりやすく説明いたします。